今回は不動産の基礎知識「境界紛争」について簡単に解説します。
読んでほしい人
- 不動産仲介営業の新人さん
- 不動産業界で働いてみたい人
- 不動産購入検討中の人
※注意・・・本ブログの掲載内容は私個人の知識によるもので、かなり簡略化しているため事実と異なる可能性があります。あくまで参考にとどめる様にお願いいたします。
目次
◇境界ってどんなもの?
まず、「境界」と一言でいっても大きく分けて「筆界」と「所有権界」というものがあります。
「筆界」とは公法上の境界です。
公図などで確認できる「登記上の境界」といったイメージで、法的に第三者に対抗できます。
筆界の定義:「筆界」とは、表題登記がある一筆の土地とこれに隣接するほかの土地との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた2以上の点及びこれらを結ぶ直線。(不動産登記法第123条第1項)
「所有権界」とは私法上の境界(当事者間の合意事項)です。
あくまで単なる当事者間の合意ですから、法的に第三者に対抗できません。
所有権界の定義:「所有権の境界」とは、土地所有権の範囲を画する境、その移動は、隣地所有者間で自由に行われる。(民法第176条、第206条)
筆界と所有権界が一致していないとどうなる?
売買や相続などで所有者を変更する場合、筆界と所有権界が一致していないと第三者に対抗できないため、新所有者との境界紛争に発展する可能性があります。
つまり、紛争防止の為には筆界と所有権界の食い違いを解消することが重要です。
◇紛争が発生してしまった場合の解決方法は?
残念ながら紛争が発生してしまった場合、主な境界確定方法として以下の4つがあります。
- 筆界特定制度
- 裁判【筆界(境界)確定訴訟】
- 裁判【所有権確定訴訟】
- ADR【裁判外紛争解決手続き】
筆界特定制度
特徴
- 公法上の境界(筆界)について、筆界調査委員が職権で必要な調査・測量を行い、筆界特定登 記官が筆界を特定する。(判断を示すのみ)
- 裁判に比べて比較的早く結論が出る。(約9ヶ月程度)
- 裁判に比べて費用も軽減される。
課題
特定された筆界は法的に確定しておらず、筆界の筆界確定訴訟により変更も可能。(筆界確定訴訟後 に筆界特定制度は利用できない)また、隣人の了解なしに境界標を設置できない。
裁判【筆界(境界)確定訴訟】
特徴
- 裁判所で公法上の境界(筆界)を確定するもので、原告と被告の主張にとらわれず、裁判所が 境界を確定する。
- 必ず筆界が確定する。(訴訟の当事者は以後境界についての争いは許されない)
課題
- 判決が出るまでに比較的長い期間を要する。
- 当事者の相手方(隣人)との人間関係が悪化するケースが多い。
- 勝訴、敗訴がないので訴訟費用は当事者それぞれが負担する。
裁判【所有権確定訴訟】
特徴
- 裁判所で私法上の境界(所有権界)を決定するもので、原告と被告どちらの主張が正しいかを 判決する。
- 判決が出れば所有権界が決定する。
課題
- 変更された所有権界をもとに筆界が変更できるとは限らない。(当事者間にしか影響を及ぼさ ない)
- 当事者の相手方(隣人)との人間関係が悪化するケースが多い。
ADR【裁判外紛争解決手続き】
特徴
- 私法上の境界(所有権界)の問題について、弁護士や土地家屋調査士などの専門家が仲介し相 談に乗る。当事者は和解による解決を目指す。
- 裁判に比べて比較的早く結論が出る。
- 裁判に比べて費用も軽減される。
課題
- 申立ての相手方に出頭義務が無く、出頭しなければ話し合いが進まない。
- 私法上の和解契約のため、裁判による確定判決の様な効力は無い。
◆確実な解決策はない
上記の解決策は実効性があるとはいえ、あくまで「こんな事したら解決できる・・・かもしれないよ?」という感じでしょうか。
境界紛争は感情的な要素(境界では無く別の恨み・妬みなど)が原因となっている場合も多いようですから、そう簡単に解決できません。
多くのケースは当事者どちらかが根をあげて転居し、知らずに購入した新所有者が全く関係ない前所有者への憎しみから嫌がらせを受けて転居し、また知らずに購入した新所有者が・・・という負の連鎖が続く確率が非常に高くなります。
一部でも境界標の無い土地を売買する際は、確定測量を条件にすることを強くおススメします。
◆取引相手は信用できるのか?
ちなみに、買主が費用負担しても頑なに確定測量を拒否する売主(個人・業者)も残念ながら存在しますが、そういった方々は面倒なことをしっかり認識しているのです。もしかしたら紛争があることを知っている可能性さえあります。
どんなに魅力的に見える物件でも、そういった不安要素があれば取引を見送る判断も必要です。
不動産は超高額ですから、取引は信用第一です。
◇境界標があれば安全なのか?
結論から言うと、残念ながら境界標の有無と境界紛争は別問題と捉える必要があります。
というのも、境界標とは筆界に基づく境界を地面上に表示するもので、所有権界を示すものではないからです。
しかも、境界標は本来の筆界の位置を推定する効力すら認められていません。つまり結局のところ、隣地所有者間で境界について見解の相違がある場合は設置根拠を確認するために資料を持ち寄って協議して判断する必要があるという事です。
ちなみに境界標の信憑性が盤石ではないのは以下のような理由からです。
- 現実の境界標には色々な種類があり、信憑性の高いものから、必ずしもそうでないものまである。また、境界標は占有状況により無断で移動される可能性があり、工事等で亡失したものを無断で復元している事例も多々ある。
- 一般的に隣接土地所有者同士が境界を確認する場合、意識するのは筆界ではなく所有権界のため、境界標が筆界に設置されているとは限らない。
「じゃあ何を信用したらいいんだ!?」という声が聞こえる気がしますが、結論としては隣地所有者と協議をして合意する方法が唯一と言っていい境界確定方法と言えます。
◇まとめ
境界紛争が発生するとそう簡単には解決できません。
解決できない以上、トラブルに巻き込まれないために、一般の方はそういった土地を神経質なほど徹底的に避けるべきです。
新規に造成・分譲された土地を購入するか、既存宅地であれば全ての境界の有無とその境界の根拠となる資料を売主や仲介業者に確認しましょう。境界が一か所でも不明瞭であれば、必ず有資格者(土地家屋調査士)による確定測量を依頼しましょう。
ではまた